黒糖焼酎の製造工程
-愛の物語編-
焼酎造りは、恋愛と似ている。
冷めると発展しないし、
熱くなりすぎるとダメになってしまう。
これは、米さんが、黒糖さんと出会い
結ばれるまでの愛の物語。
作:杜氏 西平せれな
1.米蒸
1週間後のお見合いに向けて、エステに行った。スチームと麹菌で綺麗になるんだ。
ドラムと呼ばれる機械の中に入り、体をよく洗った後、高度のスチームで体の芯までじっくり蒸された。
少し風にあたって体を冷ましたら、柔らかくなった体に麹菌をまぶしてもらう。麹菌は色々あったうちの「白麹」という菌を選んだ。私そのものの魅力を引き出してくれるらしい。
麹菌がしっかり体全体に馴染むように今日はこのままここで一晩眠る。
2.製麴
翌朝目覚めると、昨日とは違う体になっていて少し戸惑った。
急いで今日泊まるホテル「三角棚」へ移動した。ここは体が熱くなると自動的にエアコンがONになり、涼しくなると自動的にOFFになるという、とても快適な部屋だ。
一泊しかできないのが残念。
3.一次仕込み
翌朝、次のホテル「カメ」にチェックイン。
酵母という液体が入った地下の部屋だ。
屋根もないし、昨日までのホテルに比べるとかなり過酷な環境だけれど、生きるためには試練にも耐えなくてはいけない。体だけではなく心も磨くのだ。
ここで五日間過ごす...
大丈夫。時々耐えられなくなると担当の人が来て、落ち着かせてくれるから。
4.黒糖溶解
一方その頃、お相手の黒糖さんは...
「明日のお見合い、必ず成功させたい」
お湯に浸かりながら思わず独り言を溢した。
わかっている。私の欠点は堅物で、他者と打ち解けにくいところだ。明日は失敗しないようにここでしっかりと覚悟を決めて心を溶かそう。
そんなことを思っていると、見張りの人たちがお湯をかき混ぜてくれた。なんだか励まされているような気持ちになる。すると心なしか少しづつ気持ちが解れていき、私の甘い香りが際立ってきた。
「忘れていた。これが私の持ち味だ。」
少しだけ自信を取り戻せたような気がした。
5.二次仕込み
いよいよ待ちに待ったお見合いの日。
過酷な環境を乗り越え心も体も綺麗になった米さんと、自信を取り戻した黒糖さん。
「初めまして」と挨拶をするなり、すぐに二人は意気投合。
互いの魅力に引き込まれるように、みるみるうちに温度を上げ、ブクブクと音を立てながら深く甘い香りを放ちます。
まるで昔から知っているような、懐かしさと愛しさ。2つの間には不思議なシンパシーが芽生えていました。
そして日を重ねる毎にゆっくりと互いの色に染まり、反応しあうことでまた、それぞれ新しい自分を発見するのでした。
6.蒸留
お見合いから二週間ほど経った頃、二人は同じ窯でグツグツと燃え上がります。
こうして、愛の結晶
「黒糖焼酎」が生まれましたとさ。
黒糖焼酎は二人の酔いところを凝縮した奇跡の子。黒糖さんの甘い香りと、米さんの深い旨味が感じられる豊かな味わいです。
7.貯蔵
無事に誕生した黒糖焼酎はその後、様々な寝床で長い年月を過ごし、すくすく育ちます。
ホーロータンクの中で眠ると、時間と共に角が取れ、丸く柔らかく、樫の木の樽の中で眠ると更に香豊かな琥珀色に。
環境と時の流れによって様々な黒糖焼酎に成長していきます。
8.瓶詰め
こうして成長した黒糖焼酎に新鮮な水を加え、アルコール度数を整え瓶に詰め、皆様の元へお届けします。
ぜひこのストーリーを思い出しながら酔い時間をお楽しみください。